大海を知る

久々に雪山を見た。私用で安芸へ赴いた際、ふと遠くの山が視界に入った。うっすらと白い。どこか懐かしさを覚え、そういえば室戸で雪山を見ないことに初めて気がついた。

季節感の薄い町である。日本海側の記録的大雪など、もはや海外の話のようだ。私は店に並ぶ魚を見て四季を知る。冬はブリ。室戸は雪雲の代わりにブリが来る。

私が室戸に来て最も驚いたことの一つに、そのブリにまつわるできごとがある。地元の人が、港で買ったブリを一本まるごと、頭から自転車の籠に突っ込んで持ち帰っていた。私はこれを「ブリチャリ」と呼んでいる。室戸ならではの豪快な一景だ。

先日、中学校の授業でブリチャリの話をした。ところが、誰もこの驚きに共感してくれない。むしろ、驚かれたことに驚いたという。彼らにとっては、日常のごく当たり前の光景なのだ。

子どもたちには外の世界を経験してほしいと改めて思った。室戸の冬の過ごしやすさを知り、魚の美味しさを再認識するだろう。 地方では井の中の蛙ほど声が大きいように感じるのは気のせいだろうか。人口流出を止めることに躍起になるより、外から帰ってくる場所をつくってあげたいものだ。