大瀬崎

静岡県の大瀬崎という場所を訪れた。伊豆半島の付け根近く、駿河湾にニョロっと突き出す小さな岬である。

この岬は琵琶島という島が陸と繋がってできたもの。その琵琶島に関する興味深い伝説を聞いた。なんと土佐から運ばれたというのだ。

飛鳥時代、白鳳十三年(六八四年)のある日、大きな地震が一晩中続いた。翌朝、海には見慣れぬ島がいくつもあったという。その内の一つが琵琶島である。

反対に、土佐国では同じ頃に島がいくつも消えたという話が伝わっていた。人々は、何者かが土佐から島を引っ張ってきたのだと考え、神社を建ててその者を祀ったのだそうだ。

この年に地震が起こったことが日本書紀に記されている。これは歴史記録として残る最古の南海トラフ地震と考えられている。

土佐では地震とともに土地が沈降して島が海没、反対に大瀬崎周辺では隆起して海底が陸化したのであろう。

南海トラフでは、南海、東南海、東海地震の三つが連動する巨大地震が起こりうると言われている。一三〇〇年以上前の大瀬崎の伝説はまさにそれである。 室戸から大瀬崎の移動時間を思い出すと、その規模にゾッとした。